願いを託し、神男が炎に挑む「鳥羽の火祭り」
一年の天候や豊凶を占うため、愛知県西尾市の鳥羽神明社で、1200年にもわたり執り行われてきた天下の奇祭「鳥羽の火祭り」。
毎年旧暦1月7日(現在は2月第2日曜日)に行われるこの祭りに、なくてはならないものがあります。
それは境内に設置された2基の大松明「すずみ」です。
神木(しんぎ)であるトチノキを茅で包み、60本(うるう年では61本)もの青竹で周りを囲んで藤づるで巻き上げ固定した後、根元には1年を表す「十二縄」を巻いたすずみは、高さ16尺(約5m)、重さ約2tにもなります。
祭りでは、この大きなすずみに火をつけ、奉仕者が競って神木と十二縄を取り出し、神前に供えるとともに、その燃え具合によって、その年の天候や豊凶を占います。
煙が多ければ雨が多く、竹の爆ぜる音が激しければ雷が多いといわれ、また、競い合う地区の一つである“福地”が勝つと豊作で雨に恵まれ、もう一方の“乾地”が勝つと日照りが続くといった異変が起こるといわれてきました。
藤づるで固定するのは、すずみの上下2ヵ所で、上部を「一の藤」、下部を「二の藤」と呼び、すずみが燃えるときの合図のめどとなるそうです。
また、神明社の西に位置する宮西川を境に、西を「福地(ふくじ)」東を「乾地(かんじ)」に分け、25歳の厄男である「神男(しんおとこ)」が各地区から1名ずつ選ばれるのも、特色の一つです。
神男にはすずみに火をつけるという重要な役割があり、火祭りが行われる3日前より神社にこもり、斎戒沐浴(さいかいもくよく)をして身を清めるだけでなく、祭り当日は午後3時から奉仕者とともにお祓いを受けた後、禊(みそぎ)を行うべく裸で海に入ります。
(禊の様子を想像するだけで、心身の引き締まる思いです)
祭り当日、日が落ち、周囲が闇に包まれた午後7時。
火打石によって点火されたゆすり棒を、神男が2基のすずみにかざし、同時に火が灯されます。
すずみはあっという間には燃え上がり、空を真っ赤に染めていく中、神木と十二縄を神前に供えるべく、古いのぼりで作った胴着と頭巾をかぶった奉仕者たちが一斉に飛び込んでいくのです。
頭巾の形と、素早くすずみから飛び降りる姿から、奉仕者は「ネコ」という通称で呼ばれているそうです。
燃え盛る炎をかきわけ、神木を取り出すことは決して容易ではなく、さらに、炎が煙にかわりむせかえる中で十二縄も取り出さなければいけません。
奉仕者たちは水をかけてもらいながら、祭りを無事終えられるよう、文字通り必死の思いで力を尽くします。
神男や奉仕者、水をかけたり火を払い除けたり、合図の太鼓を打つ役割を持つ人を含めた、およそ100人もの人たちの姿からは、豊作への願いとともに、自然ヘの大きな畏怖が感じられます。
移り変わる時代の中で、今日に至るまで受け継がれてきた「鳥羽の火祭り」は、平成16年2月には国指定重要無形民俗文化財に指定されました。
2019年は2月10日に行われる、この天下の奇祭を、一度目にしてみてはいかがでしょうか。
祭りの様子はこちらの動画からもご覧になれます↓
https://www.youtube.com/watch?v=7tL9MT-reBo
(Aichi Now提供 https://www.aichi-now.jp)
【執筆者:伊藤成美】
開催場所:鳥羽神明社(愛知県西尾市鳥羽町西迫89)
参考サイト:
・鳥羽神明社ホームページ http://www.katch.ne.jp/~toba-shinmeisha/himatsuri/index.html
・Aichi Now https://www.aichi-now.jp/spots/detail/144/
・西尾市観光協会ホームページ http://nishiokanko.com/