【前編】名古屋のまちに、木がたくさん転がっていた頃

日本の三大都市に数えられる「名古屋」。自動車産業や航空機産業など、製造業の隆盛により発展してきました。なぜ今のように発展することができたのでしょうか?そんな素朴な疑問に対する一つの答えとして考えられているのが“木材流通の拠点”だったことです。

堀川

その大きな役割を担ったのが、名古屋の中心部を南北に流れる「堀川」。江戸初期の慶長15年(1610年)、名古屋城の築城に必要な木材を運ぶため開削された人工の川です。

堀川をご存知の方なら、あまりきれいとは言えない川…という印象があるかもしれません。今は利用されていませんが、ちょっと前までは木材運搬の川として活躍していたという事実が驚きですよね。

トラックで輸送するのが当たり前になってしまった今、川に木が浮かんでいた様子を想像するだけでワクワクします。具体的にはどのように木材が運ばれていたのでしょうか?

実は、当時の活気を知ることができる施設があるんです!

往時の写真が充実!「熱田白鳥の歴史館」

熱田白鳥の歴史館

地下鉄名港線・日比谷駅から歩いて10分ほど。平成27年にオープンした「熱田白鳥の歴史館」(名古屋市熱田区)。林野庁中部森林管理局名古屋事務所が併設され、同所が運営しています。

白鳥貯木場跡

赤枠の内側がかつての白鳥貯木場(林野庁中部森林管理局所蔵)

周りには、国際会議場、名古屋学院大学、白鳥庭園が並び、その一帯約16ha(ナゴヤドーム3.3個分)は、木材集積地であった「白鳥貯木場」の跡地なのです。

重機などが無い時代、貯木場内での木材の移動や、堀川沿いにある木材業者への搬出入を考えると水運は効率的でした。さらに、水に木材を浸けておくことで、木の材質が良くなる(白くなる)、干割れ防止、防虫効果も考えられていたようです。

熱田白鳥の歴史館

熱田白鳥の歴史館の内観

館内では、貯木場として盛況だった頃の写真や、名古屋までどのように木材が運ばれていたのかなど、たっぷりの資料展示で紹介しています。

「この地方の木材は全国で人気だったんですよ。江戸城の西の丸など、各地のお城や明治神宮にも使われたみたいです」と話すのは、中部森林管理局名古屋事務所の副所長である木島伸悟さん。

良質な木曽ヒノキを中心に取り扱っていた白鳥貯木場は、全国でも有数の木材流通の拠点となりました。江戸時代、尾張藩領地の木曽(長野県南西部)や幕府直轄地の飛騨(岐阜県北部)で伐採された木材を木曽川で流送し、白鳥貯木場まで26里(約102km)、300日をかけて運ばれていたと言います。

貯木場の近くには木材輸送のための鉄道も走っていました。大正5年に臨港線白鳥駅が作られ、昭和30年代頃にトラックでの輸送が主流となるまで、重要な物流インフラとなっていました。白鳥駅は昭和57年に廃止となり、白鳥貯木場も徐々に役目を終え、平成8年にすべての貯木事業が終わりました。割と最近まで活躍していたとは驚きです!

また、木材集積地となったことで、周辺の地域に木材が供給しやすくなりました。窯業が盛んな愛知県の瀬戸地域では木材が燃料に。トヨタを中心とした自動車産業などは当時、機械の動力源は木炭でした。こうしたエネルギー面で、名古屋に集まった木材たちは産業の発展を支えていたんですね。

巨大な木材を山から海まで、どうやって運んでいた?

木曽式伐木運材図会

※林野庁中部森林管理局所蔵

自動車も鉄道もなく交通網が整っていなかった時代、木曽や飛騨の山中で伐採された木材を運び出すのは、大変な労力が必要でした。そうした中で様々な仕掛けを作り、工夫を重ねて、山から谷へ木材を下ろし、沢の水や木曽川の流れを利用して少ない労力で運ぶ方法が編み出されました。「木曽式伐木運材法」という技法です。

熱田白鳥の歴史館

熱田白鳥の歴史館には、林業遺産に登録されている貴重な歴史資料「木曽式伐木運材図会」の複写が展示され、当時の様子をうかがい知ることができます。
※「木曽式伐木運材図会」の詳しい記事はこちら↓
伐採編(https://moriwaku.jp/history/6036/
上流編(https://moriwaku.jp/history/6045/
中・下流編(https://moriwaku.jp/history/6052/

奥山で大木を伐採するところから、造材、搬出・集材、木曽川でのいかだによる流送、白鳥貯木場での集積、大型船による海上輸送までの様子が、作業工程順に絵図と詞書で説明されています。ここですべてを説明しようと思うとかなーり長くなってしまいそうなので、ぜひ同館を訪れて自らの目で確かめるのがおすすめです!

さらに館内には、「木曽式伐木運材法」がまだ行われていた当時のビデオが残されており、木材が効率よく美しく運ばれていく様子を映像で見ることもできます。険しい山中の傾斜を木材が滑り落ちていく速さは迫力が、そして一定の場所にたどり着く正確さは一見の価値あり!!

ここまで歴史を知る中で、当時の雰囲気を少しでも感じ取りたいと気持ちが高ぶってしまった編集部一行。勢い余って、堀川に今も残る名古屋の木材産業が隆盛を誇った大正、昭和時代の足跡を探してみました!続編の記事ではその様子をお届けします!

※掲載している過去の写真や図会画像(林野庁中部森林管理局所蔵のもの)の二次利用は厳禁です


熱田白鳥の歴史館(中部森林管理局名古屋事務所)
愛知県名古屋市熱田区熱田西町1-20
052-683-9206
開館時間:9:00~12:00、13:00~16:00
休館日:土・日・祝日、年末年始
入場料:無料
ホームページ:http://www.rinya.maff.go.jp/chubu/nagoya/