日本最古のブナの建築「立石寺」
日本最古のブナ建築をご存知ですか?ブナというと、伐採して短期間で変色する、腐れやすく保存性が低い、乾燥時に寸法が狂いやすいといった木材として使いにくい性質があります。現在では、乾燥技術や加工技術が進歩したことで家具、合板、床材をはじめ様々な用途に用いられていますが、かつては用途が限られており、建築材としてはあまり使われていませんでした。
一方で、そんな建築には向いていなかったブナを使用した建築物の例があります。今回はブナを使った最古の日本建築である「立石寺(りっしゃくじ)」を紹介します。
松尾芭蕉も訪れた歴史あるお寺
立石寺の正式名称は「宝珠山阿所川院立石寺(ほうじゅさんあそかわいんりっしゃくじ)」。山の上にあることからか“山寺”の愛称で親しまれています。さらに、かの有名な松尾芭蕉が立石寺に参拝した際に「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだことでも知られています。
そして、この寺院はブナを使用した建築物の中では日本最古のものとなるようです。ブナが使用されているのは立石寺の本堂にあたる「根本中堂」。こちらは銅板葺き(銅を薄くした板で屋根を覆った屋根の総称)の入母屋造りになっています。
この「根本本堂」は1356年に初代山形城主・斯波兼頼(しばかねより)によって再建されたものです。しかし、1615年と1963年に大修理を行うなど、創建からおよそ600年の間に40%の木材を取り換えなければいけませんでした。日本最古の建築物である法隆寺のヒノキで建てられた主要部分は1300年経っても健在です。このように比べてみてもブナの建築は非常に短命と言えそうです。
なぜ、建築材としてあまり適していないブナ材を使わなくてはいけなかったのでしょうか。その理由は、経済的に余裕がなかったことが原因だと言われています。立石寺がつくられたのは兼頼が山形へ赴任して間もなくの事でした。そのため、経済的な基盤も脆弱。お金に余裕はありませんでした。建築のために、各地の豪族から寄付をもらってこの立石寺を建てたそうです。さらに、この付近にブナが多く生えていたことも使用された一因だと思われます。今も境内の奥にはブナの木が茂っているそうです。
1100年以上続く不滅の法灯
根本中堂の宮殿には木造薬師如来坐像(国の重要文化財)が安置されています。その木造薬師如来坐像は像高129.7㎝で、1本のカツラの木から彫りだされており、平安時代の作品なのだそうです。さらに、根本中堂の仏像を安置する場所には「不滅の法灯*」があります。こちらは、本山である比叡山延暦寺より移し灯したものです。その炎は安土桃山時代から1100年以上も絶えることなくほのかな光を放ち続けています。
*「不滅の法灯」:比叡山延暦寺の総本山である延暦寺根本中堂にて、日本の天台宗の開祖・最澄のともした灯火は1200年間一度も消えることなく輝き続けているので、「不滅の法灯」と呼ばれています。
日本最古のブナ建築を紹介しました。建築の主役はヒノキ、スギをはじめとする針葉樹です。その一方で、ブナのように広葉樹を使った建築物があるのも個性的で面白いのですね。ぜひ一度足を運んでみて、実物を体感してみてはいかがでしょうか?
参考文献)
新建新聞社出版部(2006)『日本の原点シリーズ 木の文化5 橅・楢・栗』新建新聞社
西川栄明(2016)『樹木と木材の図鑑-日本の有用種101』創元社
山形県の歴史散歩編集委員会(2011)『山形県の歴史散歩』山川出版社