高校生と地元企業がともに学び合う中で、森ではたらくことがより身近になる

2015年12月から岐阜県の高校である試みが始まりました。舞台は高山市の県立飛騨高山高等学校。同校の演習林で生徒たちが伐採した木材を、民間企業(飛騨五木グループ)と連携することで製材・加工し、最終的に建物や商品にするところまでを共同で行う「飛騨高山高校演習林活用プロジェクト」。

森で働くことへの興味や楽しみ、生きがいを見出すきっかけとして、また、地元の木材に愛着を持ってもらいたいという思いからスタートした取り組みです。

プロジェクトの流れ

飛騨高山高校演習林活用プロジェクト

平成28年度開催時の流れ

一連の流れとしては、植林や伐採などの“川上”から、丸太を製材・加工する“川中”、木材を消費者のもとへ届けるために最終的に商品やサービスなどの形にする“川下”、これらすべての流れを体験します。約一年のうち、5回ほどに渡って各テーマを設けて授業を開講。
※内容は年度により変わります

「伐採式」

飛騨高山高校演習林活用プロジェクト

伐採した木の直径を測る生徒たち

演習林内で生徒たちが選木した樹木(2018年度は樹齢約100年のヒノキ)を、飛騨五木グループの林業班リーダーによる指導のもと伐採。その場で建材として適寸のサイズに造材し、後日同社の土場へ運搬します。

「製材・乾燥編」

土場で2ヶ月ほど保管しておいた演習林産丸太を製材。どのように木取りするのかなど、製材マンからレクチャーを受けます。挽いた材はこのあと数ヶ月天然乾燥。

「建築・加工編」

飛騨高山高校演習林活用プロジェクト

含水率計を木材に当てて、含水率を計測中

天然乾燥させた演習林材の寸法・含水率測定、大工の木材加工場を見学。

「建築編」

飛騨高山高校演習林活用プロジェクト

完成した「みらいえ高山」の大黒柱

建築現場を見学。大工さんから指導を受けながら構造材組み立て作業を体験。1期目はサービス付高齢者向け住宅「みらいえ高山」の大黒柱や梁材として演習林材を活用(2016年9月28日完成)。2期目は「高山市国府児童館」の外装材に使用(2018年1月30日完成)。3期目は国指定重要文化財である「日下部民藝館」の改修にて演習林材を使いました(2018年12月25日完成)。

また、2018年度は木工にも挑戦。地元の木工家の協力を仰ぎ、通算8日間かけてカッティングボードやティッシュBOXなどの木工作品も制作し、学園祭で販売も実施しました。同時に、木工ブランド「KIE(キイエ)」も立ち上げ。毎年徐々に内容を更新している同プロジェクトのさらなる進化から益々目が離せません。

井上守さん

飛騨五木株式会社代表取締役の井上守さん

これらのプロジェクト内容を企画・実行してきたのが、飛騨五木株式会社代表取締役の井上守さん。なぜこれほどまでに積極的かつ柔軟な姿勢で取り組んできたのか、その経緯や今後の展開について話を伺いました!
※飛騨五木グループ全体の取り組みについてはこちらの記事へ↓
https://moriwaku.jp/activity/297/

― 同プロジェクトの背景を教えてください。

「もともとは、地元の木材を活用してくれる若い人を企業としても育てていかなければいけないという思いがありました。そんなときに、飛騨高山高校の森林科学科の先生と知り合う機会があって。そこで、林業コースの約20人のうち林業系に就職したのが当時1人だけだったという事実を初めて知ったんです。『教え甲斐がない』と嘆いていた先生の言葉がきっかけでしたね。そこから最初は木に関連する地元企業を集めた就職イベントを開きました。

そのあと、先生に声を掛けてもらって演習林で生徒が伐採するところも見に行って。実際、演習林の木を見てみると、結構いい材料あるじゃん!という感じで。伐って市場に出した材がどうなるか先生に聞いたら『分からん』と。『誰が買ったかもどこへ行ったかも分からん』ということでした。そこで、ちょっと待てよと。だったらじゃあうちで使わせてくれ、ぜひこれを生徒に見させようとすぐに提案しました」

こうして、先生の悲痛な嘆きに喚起されて同プロジェクトは始まることになりました。プロジェクト1年目の結果としては、3人が林業関連の事業体に就職し、4人が森林・建築系の学校に進学。あまりの変化に、『これはすごい成果だ。意識が変わった!』と先生たちからも好評価だったようです。

ちなみに直近の2018年度はプロジェクトとして初めて木工にもチャレンジしましたが、なんと、当時まだ進路先が定まっていなかった生徒が、この体験をきっかけに地元の木工メーカーへの就職を決めました。生徒たちの“はたらく”という意識への刺激となっていることは間違いなさそうです。

― 今後、このプロジェクトをどうしていきたいですか?

「地元の木を地元で使いましょうだけで終わりじゃなくて、裏にあるさまざまな問題、なんで流通していかないんだろう、買ってもらえないんだろう、使わないんだろう、というところまで踏み込む意識を持ってもらえるようにしたいです。そのために、例えば自分たちで単価設定などを行うことも入れ込んでいきたいし。もちろん、その先に地元で就職してもらいたいというのが第一前提にありますけどね。働くことが楽しい、やりがいがあると感じてもらえるようなプロジェクトにしていきたいです」

飛騨高山という地域経済にとって、産業従事者としての若者の存在はとてつもなく大きいのです。仕事として、働く場として、魅力的なものがあるということを知ってもらうためにも、この取り組みはまだまだ続いていきます。


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