グリーンウッドワークを通して、森と人との暮らしをつなげる

久津輪 雅 准教授(岐阜県立森林文化アカデミー)

 

久津輪雅先生が「グリーンウッドワーク」と出会ったのは、2001年から家具職人として働いていたイギリス滞在時代。それは、生木を人力で削って小物や家具を作るものでした。精密な木工を追求していた当時は「ノスタルジックなことやってるな~」という印象しか持たなかったと言います。しかし、その道の第一人者であるマイク・アボット氏の講座を受け、実際に体験してみると感動の連続。それまで学んできたこととは異なる世界がありました。そもそも材料を仕立てるために木を割ることや乾燥していない木材を使うこと自体が初めて。この面白さに感銘を受け、日本でもウケると確信。岐阜県立森林文化アカデミーへの着任後にはグリーンウッドワークの普及活動を始めました。初めは学生有志を募り、月1回程度の課外活動としてスタート。材料となる木を山から伐り出し、“足踏みろくろ”や“削り馬”という道具に据え付けた木材に刃物を当てて削り、指輪やスプーンなどを制作していきました。徐々に活動範囲を広げ、10年が過ぎた現在は北海道から九州までさまざまな地域で講座を開講するまでに。

 

 

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作るものに応じて必要なサイズにカットしたり、割ったりします

 

 

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自分が作りたい形に墨付けし、それを目印にひたすら削っていきます。使う刃物はドローナイフや彫刻刀、小刀など目的に合わせてさまざま

 

今では目新しく感じる生木の木工ですが、かつては日本にも近い文化はありました。山で樹木を伐採し、その場で斧を用いて材を割り、刃物で削ってお椀などの製品へと仕上げていました。その方が巨大で重たい木を運んで里へ下りるよりも効率が良かったからです。そうした森と人の暮らしが結びついていた時代はごく最近まで続いていました。ところが、産業革命後、機械化が進んだことで生活は一変。生きている木に触れる機会はどんどんなくなってしまいました。木を材料として見ることがほとんどの現代。グリーンウッドワークでは伐りたての木を削ると水のしぶきが飛んできたり、埋もれていた枝が割った断面に現れたりと、直接木を加工することで“生きものを扱っている”という実感が湧いてくるのです。

 

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今年度も開講されている「グリーンウッドワーク指導者養成講座」は受付開始後すぐに満員になるほど人気

 

日本のものづくりはプロがどんどん技術を極めていくため、素人が簡単に手を出せる領域ではなくなってしまいがちです。けれど、「みんなで楽しい木工をやるのもいいじゃん」と話す久津輪先生。何よりも自分自身が楽しみながら、グリーンウッドワークの魅力を日本全国に発信しています。

 

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久津輪 雅

岐阜県立森林文化アカデミー 准教授
福岡県出身。筑波大学国際関係学類卒業。飛騨高山で木工を学び、 イギリスで5年間家具職人として働いた後、2006年より現職。 生木を削って小物や家具をつくるグリーンウッドワークという新しい木工の普及や、和傘や鵜籠など岐阜の伝統工芸の原材料確保、人材育成などに力を入れています。
http://www.forest.ac.jp/teachers/kutsuwa-masashi/