木工のプロだからできること、時代に求められていることがある【オークヴィレッジ株式会社】(前編)

一本の木が生き物として生きている状態から、伐採・加工され材料となり、モノとして私たちのもとに届くまで、長い距離と時間がかかっています。

その過程では、仕事という形であらゆる人の手を通って来てもいます。しかし、その事実は世間に全然伝わっていません。あんなに巨大な生物資源をみんなで苦労して消費者のもとへ届けているというのに、知られていないのは悲しい…!

ということで、森に直接的・間接的につながっている色々な仕事をシリーズ記事として紹介していきたいと思います。

※森ではたらきたい!という方は、合わせてWEBサイト「森、しごと、探す。」をチェック!↓
https://job.moriwaku.jp/

オークヴィレッジの佐々木さん

オークヴィレッジ株式会社取締役の佐々木一弘さん

今回は、森ではたらくシリーズ第一弾として、小物や家具、木造建築など環境共生型の木のモノづくりに取り組む「オークヴィレッジ株式会社」の取締役・佐々木一弘さんに話を伺いました。

森林環境がより良くなるモノづくり

オークヴィレッジ本社敷地内

森の中に事務所や木材倉庫、建築スタジオなどが点在

岐阜県高山市で1974年に注文家具工房として創業したオークヴィレッジ株式会社は、当時から環境共生型の木のモノづくりを掲げてきました。『100年かかって育った木は100年使えるモノに』『お椀から建物まで』『子ども一人、ドングリ一粒』の3つの理念のもと、企画、設計、製造、施工、販売まですべてを自社で行っています。

「つくるモノについてジャンルは一切設けていません。木でつくれるモノはすべてつくってしまうので。だから、自分たちが何業だというふうには捉えていません。とにかく木を使ってモノをつくる会社というスタンスでやっています」と佐々木さん。

デザイン・技術・素材が三位一体となり、オークヴィレッジのスタイルを支えています。

オークヴィレッジの木工職人

一つひとつ丁寧に拭き漆の作業を行う職人さん

「デザインや木を加工する技術はモノづくりをする上では必要条件であり、常に研鑽を積んでいく必要があります。レベルアップを目指していくのが当たり前だと思っています。一方で今の時代、そして木を使う者として、どんな素材を使うかが大事です。社会においてどういう木を、どう使うかによって、私たちを取り巻く環境に直接影響を与えますし、私たちがモノづくりをすることによって日本の森林環境が良くなるモノづくりをしなければなりません。その点が満たされてはじめて必要十分なモノになるのだと思います」

オークヴィレッジの木材倉庫

こうした考えのもと、素材となる木はほとんど国産材を使用しています。「建物についてはすべてっていうのは難しいけど、小物や家具の広葉樹については100%国産材。材料調達のサプライチェーンを四十数年かけてつくってきました。材料は常時20種類くらいストックがあるかなあ。全国からあらゆる調達方法を駆使して集めていますよ。自社の努力はもちろん、広葉樹の製材を得意とする地元の製材所の存在は大きいですね」

環境低負荷な材料調達の先にあったもの

NEOWOODS

材料を調達する際、環境に与えるインパクトをより少なくしたいという思いから、地域と連携したプロジェクトが立ち上がりました。その第一弾が『Neo Woods(根尾の広葉樹活用プロジェクト)』です。
※『Neo Woods』のホームページはこちら↓
http://neowoods.jp/

モノづくりのオークヴィレッジ株式会社と、林業の有限会社根尾開発、製材業の株式会社カネモク、岐阜県内の3社が協業しています。各社の距離が近いことで、輸送のエネルギーコストを最小限に抑えることができ、より環境低負荷な流通を実現することが可能になります。

そして、一番重要な要素が、規格外の広葉樹を活用するということ。森林整備で伐採された広葉樹の中でも、製紙や燃料用チップとなってしまう材を活かすスキーム構築を目指します。

広葉樹はもともと、針葉樹と比べても早く真っすぐに育ちません。森に生えている樹木も、家具材としては十分でない太さであったり、曲がりくねっていて材料として使いづらかったりと、さまざまな理由から国内の広葉樹は積極的に活用されてきませんでした。

オークヴィレッジの子どもイス

「広葉樹の森 子どもイス」(写真:中川周)

しかし、それぞれに専門分野を持った3社が手を取り合うことで、規格外とされる材を見極めてうまく加工、商品化することで、規格外広葉樹の価値を高めることにつながります。実際、このNeo Woodsの木材で玩具や子ども用のイス等が商品として販売されるまでに至りました。

これだけに留まらず、島根県浜田市、群馬県みなかみ町や東京都の檜原村でも林業の六次産業化を目指す取り組みを進めています。プロジェクトの中身は地域ごとですが、木は全国各地にある資源だからこそ、色んな地域で展開できるのでしょう。

また、こうした広がりはオークヴィレッジ自体にとっても、各地の多様な材が調達できるようになるというメリットがあります。環境にとっても、自社のモノづくりにとっても、win-winな関係性が徐々に構築されています。

森側から求められる、モノづくり・デザインの視点

オークヴィレッジのショールーム

緑と木材のコントラストが美しい本社・せせらぎラウンジ

木材流通における川上~川下までの長い流れの中で、オークヴィレッジは川下に位置しています。森で伐採された丸太が運ばれ、製材されて木工材料となるまでの流通上、モノをつくる者として、素材が生み出される森との距離は遠いです。その一方で、「より消費者に近い立場にいるからこそ、山とマーケットをつなぐ必要がある、つなぐことができる存在だと思っています。木材を使うことの社会的な意義を捉えて、山とマーケットをモノづくりで、どうつないでいくのかということを考えています」。

前述の地域連携プロジェクトのように、モノづくりとしての視点から、企画段階から関わり、プロジェクト全体のスキームづくりも一緒に考え、山とマーケットをマッチングさせています。

「(木工をやっていない人は)山に行って木を見てもそれが具体的にどうなるかってイメージがつかないんだと思うんですよ。でも、僕らは山に行って木を見れば、だいたいどういうものになるかとかね、どういうビジネスができるかっていう設計ができるんですよ。その地域にある木工の施設とか、製材所とか、色々な設備、従事している人たちの力量を見ればだいたい事業モデルの設計はできます」

例えば、島根県浜田市のプロジェクトでは、地元で商品を作るところまでは行ってもらい、その商品をオークヴィレッジが買い上げ、販売をするようなスキーム事例があります。

「ほんとは食べ物だったら地産地消が望ましいんでしょうけど、木工品の場合はなかなか地産地消までは難しいので、せめて“地産地製”までできるとエネルギーコストがかからなくて良いかなってことは考えながらやってます。ただ、広葉樹って製材とか乾燥が難しくて、理想はそうなんですけど、なかなか山から伐り出したあとどうするっていう現実があってですね、非常にそこはハードルが高くって。思ったようにうまくぽんぽーんと進んでいかないんですけど、色々工夫して色々考えながら、例えば群馬県のみなかみモデルなんかは、伐り出した木をすぐこちら(高山)に運んでもらって、カネモクさんで製材乾燥して、僕らが製品をつくって提供したりするんですけど、まずはね。ただ最終的にはやっぱり、ある程度みなかみでそれができるようにしていかないとですね」

机上で議論するだけではなく、成功事例をどこかで作って見せていかなければという使命感が佐々木さんたちを突き動かしています。

「“エシカルビジネス”っていう言葉を皆さんおっしゃるけれども、やっぱり僕らがそれをすることで社会のためになり、かつそれによって会社として成り立つというね。それで必要とされる度合いが大きくなればなるほど売上も増えるというね。そういう形が望ましいのだとすれば、そういうところに入っていく。僕らとしてのキーワードは、やはり『林業の六次産業化』ということになってくるのかなと思いますね」

この取材時、すでに北海道や青森、岩手、和歌山、山口から勉強会の講師などの依頼がいくつも入っていた佐々木さん。売れっ子プロデューサーさながらの人気ぶり。それだけ、今の時代に求められている存在なのだということを、まざまざと実感しました。

オークヴィレッジの積み木

本社ショップ内で販売されていた積み木

ただモノをつくり、デザインや技術を磨いていくのではなく、社会的なインパクト、木工のプロだから貢献できることを念頭に置きながら活動しているオークヴィレッジ株式会社。この両輪がうまく噛み合ってぐるぐると回っていくことで、社会的にも会社的にも面白い状況になっていくのだろうと思います。

次回は、佐々木さん個人の現在に至るまでの経緯や、森ではたらきたい人に向けたメッセージをお届けします!


★森ではたらきたい!という方は、WEBサイト「森、しごと、探す。」をチェック!↓
https://job.moriwaku.jp/