木がなければ音楽は生まれなかった?

皆さんは普段、芸術劇場やコンサートホールで音楽鑑賞する機会はありますか?

もちろん!という方も全然行かない…という方も、そうした劇場などを頭の中で想像してみてください。
そこにはどんな空間が広がっていますか?

コンサートホールのピアノ

どうでしょう?
皆さんそれぞれ色んな場所を思い浮かべたことと思います。

もう一度その空間をよく捉え直してみると、内装に木材が使われているイメージがありませんか?
音楽を鑑賞する空間に木が多く用いられるのはなぜでしょうか?

木材の音響的性質

単刀直入に言うと、人が音楽をより心地良く感じるためには木が欠かせないのです。

木と音の相性の良さは、大きく2つの要素から成り立っています。
1.音を和らげる性質
2.効率良く振動を伝える性質

まず、1の音を和らげる性質ですが、音が木材を通るとき、人間にとって耳障りな高周波成分を抑え、低い周波数成分を相対的に強めるフィルター効果があると言われています。この振動吸収特性は野球のバットなどにも活かされています。

例えばですが、コンクリートに囲まれた部屋だと音の98~99%を反射するため、残響時間が長くて言葉が聞き取りにくく、うるさいと感じてしまいます。そんな経験がある方は多いのではないでしょうか?

一方、振動を吸収する木材は残響時間が短く、心地良い音に感じます。木材は金属などよりも低音が豊かで、柔らかな音になるとも言われています。

軽くて比較的柔らかい木材は、自身が振動しやすい特徴もあります。特に木材の繊維(高さ)方向は金属に匹敵するほど音が早く伝達します。音速が6000m/秒の樹種もあり、鋼鉄やチタン合金、ガラスなどよりも20~30%高い数値になります。金属のように音速の速い材料は振動吸収が小さくなりますが、1の特性によってほどよく振動を吸収しながらも、振動を確実に伝えてくれることが、2の効率良く振動を伝える性質につながっています。

こうした特質さは、植物としての樹木がセルロースやリグニンなどの複雑な構造を持つ細胞の塊だからです。たくさんの細胞の壁により、音がマイルドに感じられているんですね。

木の楽器いろいろ

楽器ではどのような樹種の木が暗躍しているのでしょうか?

バイオリン

代表的な木製楽器であるバイオリン。ヴィオラやチェロ、コントラバス、ギターなどの弦楽器もほとんど木製です。これらは弦の振動を木材が増幅している楽器です。バイオリンの表板はドイツトウヒ(スプルースとも。日本にも生えているトウヒの仲間)。木材の中でも軽くて、速い音速と振動吸収の少なさを兼ね備えているため、音を増幅させやすいのです。

裏板にはメープル(カエデ)が用いられています。振動吸収が比較的大きいメープルを使うのは、音の吸収が音色の形成に関わっているのではと考えられています。他の部位も、役割に応じて使用される木材が異なるようです。

弦楽器以外にも、ピアノ(ドイツトウヒ、シトカスプルース、メープル)やクラリネット(グラナディラ、メープル)、琴(キリ)、和太鼓(ケヤキ)、三味線(ローズウッド、タガヤサン)と、実に多様な木々が楽器に形を変え、音楽を支えていることが分かりますね。しかし、こうした材は外国産のものがほとんどです。日本の木々は何処へ?

森林国の日本。国産材弦楽器がついに誕生

長野の山々

日本にはスギやヒノキなど、ドイツトウヒと音響特性の近い樹種が昔からありました。それにも関わらず、国産材でできた楽器がほとんどないのはなぜでしょうか。楽器製作の歴史の中で、もっとも適する木材が探求された結果がこの現状なのかもしれないですし、単純に使う習慣がないだけなのか…。はっきりとした理由は分かりません。

そうは言っても、森林率約7割を誇る森林国・日本。人の手入れが追いつかないほど資源が豊富にあります。最近では、国産材の楽器を作ろうという機運が高まりつつあります。林業地として一番古い歴史を有する奈良県の吉野杉を活用したバイオリン製作はその一例です。

既存の楽器が各地域の木材に置き換わっていく可能性もありますし、新しい楽器が生まれることもあるかもしれません。

楽器の素材を意識することで、音楽の楽しみ方をちょっと変えてみるのも面白いですね。


※参考文献
木質科学研究所「木材なんでも小辞典」(講談社)