飛騨の木を贈り物に「ひだ木(ギ)フト」(後編)

日本では緯度の高い地域に多く生育している広葉樹。そのため、北海道や東北が主な木材産地となっています。そんな中、中部地方にも広葉樹が豊富にある地域が存在しています。それは岐阜県飛騨市。飛騨の木と言えば、針葉樹よりも広葉樹なのです。

飛騨市では特異的であるこの資源を有効活用しようと、“広葉樹のまちづくり”を掲げ、ある取り組みを進めています。

前回の記事に引き続き、地域全体を巻き込んだ広葉樹プロジェクト「ひだ木(ギ)フト」に迫ります!
※前編記事はこちら↓
https://moriwaku.jp/activity/5851/

地域の森のための、地域の人によるプロジェクト

ひだ木フト

人気商品の一つであるファーストトイ「つむちゃん」

「ひだ木フト」は飛騨市の川上から川下がつながり、地元の小径木広葉樹を使った新しい木製品の企画・製作・販売を行うプロジェクトです。

始まって2年で誕生した商品は8種類。人生の節目に地元の木でできた特別な贈り物をと、朝食プレートやおもちゃなど、結婚・出産祝いなどのギフトにぴったりなアイテムが揃っています。すべて飛騨市産の広葉樹とあって、樹種のラインナップが特徴的。サクラ、ブナ、ホオに加え、カバノキ、ドロノキなどちょっと聞き慣れない樹種も有力選手として活躍しています!
※商品の詳細はこちらから↓
https://hidagift.com/

現在のプロジェクトメンバーは地元の製材所や木工職人、デザイナーなどの9名。そして、行政側からは飛騨市の林業振興課も加わっています。このメンバー全体を取りまとめているのが、代表を務めるmyu-kikakuの盤所(ばんじょ)杏子さんです。

4年前、結婚を機に飛騨市に越してきた彼女は、木育などの活動を通じて地元の大工さんや木工作家さんとのゆるやかなネットワークを少しずつ広げてきました。また、飛騨の木工文化や豊かな森があるということを内外に知ってほしいという兼ねてからの思いもあり、このプロジェクトのコーディネーターに。

ひだ木フト

協力工房の一つである北々工房の様子

協力工房の一つである北々工房の様子

ひだ木フトでは盤所さんを中心に企画段階から職人さんも加わり、商品化を進めています。材料の調達については、行政が全面的にバックアップ。市有林内の広葉樹を森林組合に依頼して伐採し(地元企業が生産した木材の流入もあります)、その丸太を地元の製材所で加工。山に生えている木が商品になるまで、色んな人の手を経ているからこそ、地域全体で手を取り合わないと成り立たないプロジェクトなのです。

根底にある思いは同じ。バラバラの個人をつなぐもの

ひだ木フト

盤所さん(左)と竹田さん(右)

盤所さん(左)と竹田さん(右)

メンバーはそれぞれ別の生業を持ち、かつ、同じ地域の住民でもあります。「『すれ違いが生まれそう』みたいな瞬間はありますね」と話す盤所さん。個人として活動するベクトルが違うからこそ、各人をチームとしてつなげる難しさがあります。

月一でミーティングを開くなどして、チームづくりを大切にしてきました。各工房の職人間での会話が増えることで、若手は先輩から教えてもらう機会になり、先輩は若手のやる気に押されるといった相乗効果を実感することも。

また、プロジェクトとしてモノをつくることは、自分の中だけの発想にならないため、職人さんにとって新たなチャレンジ、つくる楽しさを改めて感じる機会にもなっているようです。

「実は盤所さんの前に自分も同じようなチャレンジをしたんですけど、うまくいかなくて…」「みんな個人でやりたいことがあってやってるんだから、そこをあえて行政が縛るのは嫌がるんじゃないかなって言われて」と苦笑しながらも素直に話してくれたのは、飛騨市林業振興課の竹田慎二さん。

こうした経緯もありながら、今のプロジェクトが3年目を迎えられたのは、コーディネーターとしての盤所さんのバランス感覚や、各々が得意な領域で活躍できる体制になったことが大きいのかもしれません。

木工に関わる部分だけでなく、川上(林業)と川下(商品販売・小売)が直でつながるようになったことも大きな変化の一つです。「(川上とのコミュニケーションは)今まで飛騨市はゼロだったんですよ」と竹田さんが話すように、この活動をきっかけに会話が生まれるようになりました。

素材となる木を生産している人と、その木を商品という形で販売する人が直結することで、お互いができることや求めていることを知り、新たな気付きが出てきます。それは例えば、伐採する人が売れないと思っている木でも、その木がほしい人もいること。山側の人は色んな樹種が山にあることを知っていても、木工家からするとまだまだ知らない木々がたくさんあること。などなど。

飛騨の木工職人がいるからできること

メンバーの一人である北々工房代表の北川さん。工房前にて

北々工房で制作している置き時計のフレーム

商品化においては職人さんも欠かせません。
商品をよく見ると、随所に職人技が散りばめられています。上記写真のフレームのように、節をうまく生かして作るのは簡単そうに見えて実は難しいもの。節がある部分は割れやすかったり堅かったりするので、熟練した加工技術が求められます。

もともと地元の広葉樹材で木工をしてきた北々工房の北川さんはメンバーの一人。外国産材を使う木工家が大半の現在において、稀有な存在です。これまで地元の広葉樹を扱ってきたノウハウを持ったキーマンがいることにより、着実に商品化につなげることができたんですね。

また、北川さんにとっては、このプロジェクトが広がることでライバルが増えることにもなります。「ちょっと困るんだけどね」と北川さんは穏やかに笑って話してくれました。それでも協力しているのは、取り組みに共感しているからこそ。思いが同じだから、立場や置かれた状況がちがっても一つの方向に向かって動いていくことができます。

モデルケースとしての可能性

3年目となる今年度は、商品販売に力を入れていきたいと話す盤所さん。これまでは知り合いづてや問い合わせを通じた販売がほとんどでした。ネットや実店舗など、販売チャネルを広げ、共感してくれる人、ファンになってくれる人といかにつながっていけるか。

商品自体もストーリー性だけに頼らず、思わずほしいと手にしたくなる魅力的な商品へのブラッシュアップも必要だと感じています。デザイナーが加わったことで、ひだ木フトとしてのブランドを構築し、職人さんは製作に注力できるような形へと少しずつシフト。さらに、選択の幅を広げるため、商品数を充実させることも念頭に置いています。

それに伴い、材料が不足する問題も出てきます。これだけ豊富な森林があるのだから、木はいくらでもあるように思えますが、デザイン性を追求するとどうしても足りなくなる樹種もあります。これらをどのように確保し、安定供給できる体制を整えられるかも大きな課題。まだまだ試行錯誤は続きます。

飛騨市に限らず、森林資源はどの地域にもあるもの。広葉樹材や地域材を流通に乗せるのは難しいという声もありますが、この取り組みがモデルケースとなって、他の場所でも応用できる可能性があります。

そして、まだまだ知らないだけで、地域に熱量を持った人たちがいるということ。
考えるだけでなく実行に移し、徐々に思いを形にしていく行動力を持っていること。

今回、直接話しを伺うことで、肌でその熱を感じることができたとともに、なんだか励まされた森ワク編集部。

こういった地域の皆さんのパワーをもらいながら、どんどん情報発信をがんばっていこうと誓ったのでした。


<お問い合わせ>
ひだ木フト(担当:盤所)
080-1895-9133
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