単身赴任でよそ者事業 猟師サポートの拠点が開業しました!

狩猟で捕獲した野生鳥獣の食肉を総じて「ジビエ(GIBIER)」といいます。鹿やイノシシ、野ウサギ、鴨の肉などはよく聞きますが、アライグマやカラスもジビエとして食べられています。ヨーロッパでは「ジビエを食べることができる=狩猟領地を持っている」ということで、上流階級の貴族の口にしか入らないものとされていました。最近日本で流行った肉なのかと思いきや、貴族の伝統料理として古くから発展してきた食文化なのです。

現在、農林業の獣害対策として日本でも狩猟が盛んになってきましたが、一方で捕獲された動物たちが捨てられてしまっている現状もあります。そこでこの記事では、これらの鳥獣を森の資源として、「食」の視点から活用していくジビエ人を紹介していきます。

今回はジビエ特集の第2弾。大阪ではジビエ専門の飲食店オーナーを担い、広島では自ら狩猟肉の加工処理も行うジビエ人に話を聞きました。


代表の前田さん

「備後ジビエ製作所」【広島県福山市】

“日本古来の狩猟肉(ジビエ)を食肉処理・卸販売します”
2018年6月に開業された備後ジビエ製作所では、広島県と岡山県をまたぐ備後地域の山々で育った天然猪の食肉処理卸販売を行っています。保健所をはじめとする各種検査機関協力のもと、徹底した衛生管理がされていることはもちろん、食肉工程の中で熟成加工もしており旨味と栄養価の高いジビエを提供しています。今回は、代表の前田諭志さんに話を伺いました。


備後ジビエ製作所の代表を務める前田諭志さんは、高校時代にフランス料理の修業を始め、卒業後はフランス料理店に就職。しかし、将来的に料理人として働いていくことを一年で断念。その後、大阪・ミナミでボーイの仕事などを経て25歳で独立し、現在は飲食事業の展開とクリーニング・リネン事業を行っています。高校時代にフランス料理の勉強をしていたこともあり、もともとジビエには馴染みがあったと話す前田さん。「こんなに美味しいんだから、もっと身近になればいいのにと思いました。でも基本的にジビエって高いんですよね。和牛と同じくらいの値段はするんです。100g490円くらい、1kg でも5,000円くらいはしちゃうから、もう少し安く提供出来たらいいなぁって」。

そんな想いがなぜ飲食店ではなく、加工処理施設を建てることになったのか。そのきっかけについて迫ってみました。

飲食店のオーナーから猟師へ

いのしし

「もともとはジビエを専門にした飲食店を出そうと思ってたんです。ジビエを調理するのであれば、まず自分が猟師の免許を取り、鳥獣を獲ってさばくという経験をやらないとって。ちょうど従業員の知り合いに猟師をやっている人がいたので紹介してもらいました」。そして去年の2月、初めて広島県福山市へ。そこで出会ったのは45歳の男性猟師。狩猟の何から何まで教わり、前田さんが加工処理場を設立するきっかけになった人なのです。

10年後が怖い

現在36歳の前田さんですが、猟師のイメージからすると比較的若い感じがします。「猟師の8~9割が70歳以上の業界ですね。猪を捕獲しても山から引っ張りだすのが難しくて、ほとんどがそのまま捨てられてしまうか焼却場行きになっています。猟師の数も減っていて、狩猟ができない農家の人たちが、猪から生活を守るために、自分で縄を張ったりして身を守らなければならないのが現実。10年後が怖い」。若い人手が少ないことが深刻になっている中、前田さんの圧倒的な若さに貴重な人手であることも感じます。

 “無いならつくればいい” 単身赴任の道へ

「福山市自体もともと猪は少数だったんですよ。最近増えてきた結果、福山市で年間2,000頭が捕獲されてます。それなのに福山市には加工処理施設が一つもないので、捕獲されてもお金になってなかったんです。猟師さんやその身内でしか食べられなくて、ジビエを食べるという認知も追い付いていません。平成28年は食肉として利用されているのは13%しかないんです」。福山市は全国でも4番目に猪が多いといいます。全国でも上位にありながら、その認知と活用の道が狭すぎることが現状の課題でした。若い世代の人手不足という危機感と、捨てられてしまう猪をどうにかしたいという想いがつながり、「加工処理施設がないならつくればいい」と福山市での狩猟肉加工処理場開業を決意しました。

広島県福山市

備後ジビエ製作所のある広島県福山市

福山市には何の繋がりもなかったという前田さんは、初めて訪れた2月から4ヵ月後には広島に単身赴任することとなりました。「ご家族から反対はなかったんでしょうか」。「よろこんでましたね(笑)」。

単身赴任するまでの4ヵ月間は大阪と広島を行ったり来たり。今年の6月で福山市に来て1年が経ちました。

猟師をサポートする拠点に

「鮮度が落ちて食べられない」という理由で捨てられてしまうケースを減らすためにも、備後ジビエ製作所ではわな猟によって捕まえた猪の生存確認から行っています。「鮮度が大事な肉なので、いつ獲れたのかが分かれば食べられるかどうかも判断できます。山から運べない負担を作業スタッフが手伝うことで、捨てられるジビエを少なくできるようにしてます。あとは、高齢者ばかりで写真による報奨金の申請が通らないケースも多いんです。捕獲した証拠写真がうまく撮れていないとか、機械が苦手なこともあるので、申請の代行サポートもするようにしました」。山の資源を有効的に活用するため、問題の根本から向き合っていった事業。加工処理施設を拠点に、猟師のサポートをしていく場になっています。

猟師の方

猟師の皆さん

地域の新たなサポート拠点として、備後ジビエ製作所は市の指定業者にも登録されました。「それに伴って会議にも出席したんですけど、『よそ者が大阪から金儲けしやがって若者が』なんて言われることもありました。中には受け入れてくれる人もいますし、徐々に受け入れてもらってますね。こうゆう業界は難しい人も多いです」とも。“よそ者”と“若者”だからできることもあり、だからこその苦労も感じました。

 場所探しが一番の苦労

「場所探しですね。空き家自体はたくさんあるけど、山の近くは水道や下水が引けてなかったりして結構大変でした。空き家でも井戸があったりしたので、使っていない家に井戸を貸してほしいことをお願いしたら断られたりも・・。50年間も使ってないのに!って感じでしたね。使ってなくても『先祖代々の・・』みたいなものがあるんですよね。結局今の新市町戸手っていうところは、住宅街に近いところではあるんです。で、どうかなと思ったんですけど、一緒にやってた人の顔のおかげで地域に納得してもらえました。人に恵まれましたね」。

ジビエの加工作業

ジビエの加工作業の様子

猟師になって分かる山の問題

「詳しくはないけど、どの地域も猪や鹿が増えすぎで困っていることがわかりました。もちろん、獲りすぎてかわいそうという声もあるんですけど、小学生が猪に突進されて大けがをしてしまった事件だってあるし、そうなったら身を守る必要も出てきます。 にしても年間2,000頭も獲ってるのに、全然減らないんですよ。いのぶた(猪と豚を交配させた動物)という種類で増えてたりして、とにかく生まれる数が多くて減らないのが現状。確かに命は命だけど、資源は資源。捨てる方が問題だし山の資源だから有効的に使っていきたいです」。

猟師とお金の事情

「猟師の方って儲かっているんでしょうか」。「福山市は県と市からの報奨金を合わせて13,000円ほどです。地域にもよりますが、20,000円の自治体もあるので高くはないと思います。ここでは20,000円くらいで買取りをしています。少しでもお金になれば若い人手が増えると思いますし『お互いがWINWINな関係』になることが理想ですね。でも免許を取ったり道具をそろえると50万円くらいはかかっちゃいますね」。全ての狩猟免許を取るのには36,000円かかるそうで、さらに銃など狩猟に備える道具をそろえると結構。福山市で免許を取る際は3分の2の補助金があるなど、補助が手厚くなってはいるものの、なかなか若い人手が増えていかないのが現状なのです。

 加工処理施設のビジョン

1020年後にはジビエの食が増えていき、被害も少なくなることが理想です。このままではだめ。ジビエの認知があがり、山に興味を持ったり、山に入ることが楽しみになれたらいいです。現状を伝え、ジビエの魅力を発信できる拠点になれたらベストです」。20186月に開業をしたばかりの備後ジビエ製作所。前田さんはこれから福山市に定着できるように23年は立ち上げに携わっていきます。

 前田さんが語るジビエ肉の魅力とは

「自然の肉だから時期・地域・個体によって味が変わるということが魅力ですね。個体差っていうのは、猪が食べている餌によって肉の味が変わるので、食べることに楽しみがある。ちなみに福山市のイノシシは栗やみかんが餌ですね。夏は油が少なくて、冬は油がのって肥えているとかも好みなので、どっちも美味しいですよ」。

猪肉

おすすめの食べ方はこれ!

「牡丹鍋よりもしゃぶしゃぶですね。猪のしゃぶしゃぶは本当においしいんですよ。大阪でやってる飲食店では、アナグマやハクビシンとかも出してて、焼き肉で食べるのも美味しいですね。フレンチではよく使うんですけど、小動物はめちゃくちゃ美味しいから取り合いです。猪はしゃぶしゃぶが絶対おすすめ。簡単で一般家庭でも食べられるので。焼くかしゃぶしゃぶ!そして塩です!」。

いのししのしゃぶしゃぶ

 

ぼたん鍋写真

ジビエ料理の紹介(http://bingogibier.com/cuisine/

去年12月にオープン!ジビエ専門の飲食店

“獣”という名の通りジビエ肉の専門店。前田さんとの繋がりがある猟師さんから直送で仕入れるため、新鮮で安全なジビエが味わえます。店内には鹿や猪の剥製があり、山小屋のような雰囲気の中楽しむことができます!

「山小屋酒場KEMONO」
大阪市中央区千日前1-6-6 明日香ビル1F
TEL 06-6213-2323
OPEN/ 17:00~24:00
定休日/ 水曜日
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