森の資源の循環をまわす一人として、国産広葉樹の木工を極める【ARTS CRAFT JAPAN】(後編)

一本の木が生き物として生きている状態から、伐採・加工され材料となり、モノとして私たちのもとに届くまで、長い距離と時間がかかっています。

その過程では、仕事という形であらゆる人の手を通って来てもいます。しかし、その事実は世間に全然伝わっていません。あんなに巨大な生物資源をみんなで苦労して消費者のもとへ届けているというのに、知られていないのは悲しい…!

ということで、森に直接的・間接的につながっている色々な仕事をシリーズ記事として紹介していきたいと思います。

※森ではたらきたい!という方は、合わせてWEBサイト「森、しごと、探す。」をチェック!↓
https://job.moriwaku.jp/

ARTS CRAFT JAPANの代表取締役を務める渡邉主税さん

ARTS CRAFT JAPANの代表取締役を務める渡邉主税さん

今回は、森ではたらくシリーズ第2弾として、山桜を中心に国産広葉樹での家具・小物づくりを行う木工房「ARTS CRAFT JAPAN」の代表取締役・渡邉主税(ちから)さんに話を伺いました。

前編記事はこちら↓
https://moriwaku.jp/learn/work/5979/

高山の地で創業し、気付かされたこと

ARTS CRAFT JAPAN

数ある木工房との差別化を図るため、山桜専門の家具、岐阜県産広葉樹のカッティングボードをストロングポイントとしている「ARTS CRAFT JAPAN」。

使いづらいと自覚しながらも国産広葉樹を用いるのはなぜなのでしょうか。

ARTS CRAFT JAPAN

上記の写真からも分かるように、左奥の長くて真っすぐな材はホワイトオークなどの外国産材。右側の短く曲がった板は国産材です。国産広葉樹は木のクセが強く、木取りをするにも個人の技量によってできあがりに差が出てしまいます。
※「木取り」:製品をつくるため、最適なサイズに木を加工すること

上手い人と下手な人で、できる・できないが出てくると、作業の均一化を望む企業としては効率が悪くなることに。技術力の高い人しかできない家具づくりは会社として困るわけです。

「例えば、旭川は材料の集積地でもあるんですけど、意外と北海道産の材料を使わないんですよ。勤めれば分かることなんですが。製材所にも地元材がなくて。アメリカ、ロシア、中国から輸入されてきた材がほとんど、9割方を占めてます。それは高山も同じです。(市の面積のうち)93%も森林に囲まれてるのに」

岐阜県産や国産広葉樹で同じ材料を同じように大量生産することは難しい現状があります。日本の山の立地条件による素材生産の困難さや、広葉樹材の加工・活用ノウハウが少ないことなど理由はさまざま。

「じゃあ僕たちは何ができるのかなあって考えたときに、自分たちは93%の森林に囲まれてる高山市に住んでいるわけだし、種類が豊富な国産広葉樹が資源としてあるわけだし、それを商品化していかなくて誰がするのって感じじゃないですか」

ARTS CRAFT JAPAN

地元の製材所を訪れた際、実は地域で生産された広葉樹をかなり挽いていて、たくさん種類があるという事実を知った渡邉さん。かたや、その広葉樹材が商品化されていなかったり、使われず山積みにされていたり、小径木はすべてチップや薪になっている現実も目にしました。

「やはりなんとかしなきゃいけないなと。自分たちが国産広葉樹の魅力を発信していく努力がたぶん足りないから。外材に頼ってるんだろうなと」

こうして国産広葉樹材の活用に至りました。

独立から8年経った実感

ARTS CRAFT JAPAN

紆余曲折がありながらも、独立して8年になります。ここまで活動してみて、渡邉さんは今、何を感じているのでしょうか。

「そこそこ仕事はまわるようになったんですけど、国産広葉樹が安定供給できないっていのうがすごいネックになってますよね。林業の方で安定的な生産ができていない問題とか、色々と課題はあるだろうけど、家具業界や林業の明るい未来がないなっていうのは感じます。僕ができることがあるとすれば、若い人を育てて、この業界に身を置いてくれる人を増やしていくことが大事なのかなと。この世界って面白いんだよっていうのを発信していかないと」

「高山市に木工芸術スクールというところがあるんですけど、高山市出身の人は何人いますかってことですよ。30人生徒が入る枠があって、その中に生まれも育ちも高山の人が何人いるか。数人しかいない。寂しいですよね。9割以上森がある高山市に住んでいながら、地元の森の良さを知らない。逆に、緑もないような都会で育った人たちが、高山の歴史や伝統文化、緑に憧れて来ているわけじゃないですか。それが現実なんですよね」

ただ家具をつくるということだけでなく、その背景にある林業や木材の流通など、そこまで意識するようになったのは、高山に来たから気付くことができたと話す渡邉さん。

「国産広葉樹の材料を買う、商品化する、売れるっていう流通のシステムにしないと、製材所も材料を買えない。材料を買えなければ丸太も売れない。丸太が売れなければ丸太を伐る林業の人が増えない。こうしたことが間接的につながっていることに気付かされました」

「自分たちが仕事をまわして、お金をまわすようなシステムをつくって、材料をどんどん買うような流れをつくらないと滞ってしまうんですよね。丸太を伐る方も滞るし、管理する方も滞るし、木材市場の人も滞ってしまうし、産業として弱体化していくということに気付かされたというか」

「商社を通してアメリカから仕入れた外材とかを買っていたら、日本の林業は荒廃してしまうじゃないですか。国産材が売れないと林業の方で手入れできなくて、細い木が増えて、台風とかが来ると倒木がたくさん出たり、道路が寸断されたり、土砂崩れも起きてしまいます。結果的にはそういうところにつながってくるわけです。僕たちにも原因があるとは思いますね。安易に海外の材を買って、商品化ということはせずに、しっかり地域に根付いた材料を使っていきたいです」

渡邉さんの決意とは裏腹に、材料の供給が安定せず品質にバラつきが出てしまうなどの課題も多く残ります。

「東京ビッグサイトとかで展示販売したりするんですけど、国産広葉樹を使ってるからといって、それが圧倒的な強みになっているわけではなくて、ただの材料の一つでしかないという感じですね。理念としてやっているところもあるので、ビジネスとして成立するような仕組みを考えないと、国産広葉樹の良さも発信できないと思っています」

理想の実現に向けて、まだまだ道半ば。この先もやるべきことが幾つもあるから、苦労がありながらも、面白さを噛み締めて前に進むことができるんだろうなあと、しみじみ感じます。

基礎があって初めて、自己表現できる

家具職人として長く修行を積み、30代後半で独立、現在も試行錯誤しながら家具工房を営む渡邉さんに、これから木工を志す人たちへのアドバイスを聞いてみました。

「何よりも基礎が大事。基礎をしっかり身につけて、その上に応用とか自己表現があります。基礎を身につけた上で、独立するなり、作家になるなりした方が良いと思いますね。この仕事の面白さを知るためには、材料を買うところからお客さんのところへ納品するまでの、最初から最後までを体験した方がより仕事の面白さが分かるはずです。自分の身体に刻み込むくらい身につけることですね。センスが良かったとしても、基礎を疎かにしてこの業界に入ると、結構伸び悩むんですよ。センスがいいだけでは通用しないんですよ、この業界。これは自分が修行してるあいだに気付いたことです。たいがい家具をつくるのがうまい人って、ものすごい量の練習をしてるんですよ、当たり前ですけど。野球とかサッカーとか音楽と一緒です。相当やってるんですよね。だからうまい、と思いますけどね」


ARTS CRAFT JAPAN
岐阜県高山市朝日町甲204-1番地10号
0577-77-9252
artscraftjapan@hidatakayama.ne.jp
http://artscraftjapan.com/