森とウンコのすてきな関係。ノグソを極める糞土師・伊沢正名

※トップ画像の掛け軸に書かれている言葉
右:正しいノグソの仕方
「場所選び、穴掘り葉で拭き、水仕上げ、埋めて目印、年に一回」
左:糞土思想
「食は権利、うんこは責任、野糞は命の返しかた」

突然こんなタイトルで驚かれた方もいると思います。

友人から「ノグソで人間と自然の共生を真剣に考えている人がいる」と聞き、とても興味を持ちました。すぐにでも水に流したい臭いウンコと自然に、どんなつながりがあるというのでしょう。

著書を読むと、茨城県に住む伊沢正名さん(69)は、45年間で計1万4000回以上のノグソをし、連続ノグソ記録は2000年から2013年までの13年と45日。現代の生活において信じられない事実です。

周囲の反対を受けながらもキノコ写真家から転身し、2006年からノグソ活動を広める“糞土師(ふんどし)”として、全国各地で講演会を行っています。

糞土師伊沢正名のキノコ写真

キノコ写真家時代に撮影したラッシタケの仲間

なぜノグソなのか、そして伊沢さんのお人柄とは?ご本人に会ってお話を聞きました。

ノグソのはじまり

――そもそもなぜノグソをはじめたのですか?

「自分で汚いウンコをしていながら、それを始末してくれる処理場の建設には反対するという、とんでもない住民運動に憤りを感じたことがきっかけでした。それ以前に自然保護に取り組み、ウンコは自然の中では菌類のはたらきで土に還ることを知りました。

しかしトイレに流したウンコは、膨大な資源とエネルギーを使って焼却され、最終的にコンクリートに固められてしまうのです。そうなると自然に還ることはありません」

なんと!トイレに流したウンコのその先を初めて知りました。

森とノグソのすてきな関係

――森に解き放たれたノグソはどうなるのですか?

「ウンコは森の生き物たちのごちそうになります。人が物を食べると100%消化吸収はできず、残りの栄養はノグソをすることで他の生き物の食べ物になるのです。最終的には菌類に分解されて土に還り、植物というあらたな命に生まれ変わります。つまりノグソというのは、食べることで奪った多くの命を、自然に還すことなのです」

ウンコがあらたな命につながっていくんですか!?

「森にはたくさんの生き物の命が巡っています。森こそ理想の世界です。菌類は植物の死骸である落ち葉でも枯れ木でも。そして、動物の死骸でもウンコでも、分解して土に還しています。森を歩くとき、地上だけでなく、ぜひ地面の落ち葉をひっくり返して、分解の様子を見てください」

森とノグソ

食とウンコの循環図

伝えたいことは『命』

――ノグソを通して一番伝えたいことはなんですか?

「それは“命”です。食べ物はエネルギーになり、その残りがウンコになる。そこからまた、命を巡らせることができるということです。

実は私たちだってウンコを食べているんですよ。例えば発酵食品です。糖類を食べた酵母のウンコはお酒であり、乳酸菌が出したウンコはヨーグルトです。そして、植物のウンコが酸素です。ウンコと食べ物の実態と循環が解れば見方が変わるでしょう」

ウンコを甘くみていました。こんなにも深く自然と命に関わる話になるとは。ノグソ恐るべしです。

まるでアスリート?!ノグソの困難と喜び

――どうして45年間も続けることができたのでしょう?

「何と言っても楽しいからです。一番大変だったノグソは真冬の夜中の下痢です。それを乗り越えた時の快感が次につながりました。私にとってみればノグソが困難であればあるほど、その先の喜びが大きいのです。それはまるでスポーツ選手が高みを求めるのと一緒です」

伊沢さんは言うならば‟ノグソアスリート“なんですね。

マチュピチュよりも?奥さんよりも?ノグソ!?

――思い出に残るエピソードはありますか?

「ペルーのインカ文明を巡る旅をした時、体調が悪いことを理由に、最も楽しみにしていたマチュピチュ観光を直前になってキャンセルしました。マチュピチュに行ってしまっては、その日のノグソができないと思ったのです。私にとってノグソをすることの方がマチュピチュに行くより重要でした。

それを帰国後、かみさんに話したら『そんなことがあったの!』と怒られ、結果かみさんに捨てられてしまいました。でもそこまでやったからこそ、みんなに堂々とノグソの話ができるのです」

奥さんの気持ちもわかるような気がします。それでもなお、信念を貫き通した伊沢さんにあっぱれです。

糞土師伊沢正名さん

怒った奥さんのまねをする伊沢さん

バケツノグソをはじめよう

――町で暮らす人ができることはありますか?

「土を入れたバケツにウンコをするバケツノグソでしょうか。ノグソの目的は外でお尻を出してウンコをすることではなく、土に還すことです。土さえあればできます。土には化学物質にも勝る消臭効果もあるんですよ。林や畑などの土に還すことができるバケツノグソなら、町の暮らしでも自然との共生ができるのです。もしくは自然の多い地方に移り住むのもいいでしょう。地方の過疎化対策にもノグソは貢献できるのです」

さすがに移住はハードルが高いけれど、バケツノグソなら?ちょっとドキドキしますが、チャレンジしてみる価値はありそうです。

「‟伊沢さんのおかげでバケツノグソができて助かった”と、千葉県の台風で被害にあった友人から言われました。この方法を知っていれば、災害時に慌てることもないのです」

過疎化だけでなく、災害時のトイレ問題まで解決してしまう、ノグソの可能性は想像以上です。

ひとりひとりが少しずつ

――最後に読者へのメッセージをお願いします

「完璧ではなくても、ひとりが1割のことをすれば、それが100人、1000人になったら大きな意味があります。ハイキングに行った際、森に命を還すノグソをやってみればいいのです。

ノグソを続けて45年、糞土師と名乗り13年、この間に徐々に理解者が増え、理解が深まってきたと感じています。多くの人にノグソをしてほしいと願っています」

目を輝かせてウンコの話をする伊沢さんのオーラに、私自身のウンコへの偏見が流されていったようです。

森ワク読者の皆さんは森や山に出かけることも多いことでしょう。毎日ノグソをするのはちょっとと言う方も、お出かけ先で「森に命を還すノグソ」に、ぜひチャレンジしてみませんか。


〔イベント・講演会情報掲載〕
糞土研究会 ノグソフィア http://nogusophia.com/

〔伊沢正名さんの主な著書・共著書〕
・『きのこ博士入門』(全国農村教育協会)
・『日本の野生植物 コケ』(平凡社)
・『日本変形菌類図鑑』(平凡社)
・『カビ図鑑』(全国農村教育協会)
・『くう・ねる・のぐそ』(山と溪谷社)
・『うんこはごちそう』(農山漁村文化協会)
・『葉っぱのぐそをはじめよう』(山と溪谷社)
・『ウンコロジー入門』(偕成社)←12月刊行予定!