トヨタ三重宮川山林のヒノキと、彫刻家の魂が交わる

トヨタ自動車といえば、日本が誇る自動車メーカー。森の情報を集めたWEBサイトで急になんでトヨタ?ってなりますよね。書いている私もいまだにちょっと不思議です(笑)

実は、2007年から三重県大台町で同社による森林管理が始まりました。さらに、この森を舞台にスタートした企画が「FOREST CHALLENGE」。“森林再生のため森に関わる人を増やしたい”という想いから始まった取り組みです。森の資源や空間を使い、森の活性化を目指します。
※トヨタ自動車HP「トヨタ三重宮川山林」https://www.toyota.co.jp/jpn/sustainability/social_contribution/feature/forest/mie/

そしてなんといっても、この取り組みに必要不可欠なのが“人”です。森はたくさんあるけれど、じゃあそこにある資源や空間をどのように活用していくのか、どうしたら森にも社会にも恩恵がもたらされるような活動ができるのか、考え、実行していく“人”が必要になります。

そこで、協同していくチャレンジャーを2017年11月に一般公募で募集しました。その結果、森に関わりたいと熱意を持った3名を選出。2018年4月から、新たな森の事業が始動しました。
※2018年11月に開かれたイベント記事はこちら → https://moriwaku.jp/event/4567

なんだかちょっと、このフォレストチャレンジが気になってきたのではないでしょうか?
お?気になってきたって?ですよね、私もめちゃくちゃ気になってきました!

ということで、それぞれのチャレンジャーから貴重な時間をいただいてお話しを聞いちゃいました。その内容を皆さんにもおすそ分けします!

今回は3人目のチャレンジャー、彫刻家・西村浩幸さんです。

西村浩幸,彫刻家,象鯨,フォレストチャレンジ

 


西村さんのチャレンジテーマは『アートで森と地域を活かす!』。

普段は神奈川県を拠点に、彫刻作家として作品を制作しています。また、「株式会社象鯨」(http://zougei.jp/)を立ち上げ、芸術家たちが集いともに働く場を運営したり、藝大美大受験のための美術予備校「象鯨美術学院」の代表を務めたりと、幅広く活動しています。

西村浩幸,彫刻家,象鯨,フォレストチャレンジ

こうした多忙な日々を送る中、知り合いに誘われて勢いで応募したという西村さん。今でも頼まれれば小学校や中学校で講師をすることもあるように、「関われることはどんどん関わっていこう」というスタンスだからこその参加経緯がありました。

チャレンジャーとしての参画が決まってからは、地元と三重県を往復する日々が始まります。交通手段は自家用車。運転手はもちろん西村さんです。平均で月に2回ほど、夏は約2週間滞在したときもありました。

神奈川にある森林といえば、真鶴(まなづる)半島の照葉樹林。かつては御用林だったともいわれ、人の手が加わっていない自然林が広がっています。この森の倒木を彫刻の素材とすることもあるようで、日頃から木に触れる機会は多くあります。照葉樹林はタブやニッケイなど、日光を反射してツルッとした分厚い葉っぱの木が生えており、鬱蒼とした印象があります。一方で初めて訪れた大台町の山々は、スギやヒノキの人工林。多様さは少なく感じるものの、しっかりと手入れされ、整然とした山並みのイメージを持ったそうです。地元の山とは対照的で、景色がまったく異なるところが面白いと話してくれました。

 

宮川山林

宮川山林

真鶴半島

真鶴半島の照葉樹林内で材を搬出している様子

このプロジェクトで彫刻家具として使用する素材は、トヨタ三重宮川山林で採れたヒノキ。ヒノキを使うのはこれが初めてになります。いつも使うのは、ケヤキやサクラ、クスノキなどの重厚感があり、木目がねじれた味のある材。それらとは対照的なヒノキは木目がまっすぐで香りが良く、柔らかくて作りやすい印象があるようです。

このヒノキで作り上げられた彫刻家具。「使えないものを作ってこそ象鯨」と西村さんは語ります。ひたすらに“フォルムの追求”に没頭。毎日欠かさず行うデッサンの練習により磨かれた美しい形を、作品を通じて表現しています。

西村浩幸,彫刻家,フォレストチャレンジ,作品

制作した作品

象鯨,フォレストチャレンジ

制作中のお弟子さん

できあがった彫刻家具は展示会に出展。フォレストチャレンジでの取り組みを含めストーリーを話すと「これがほしい!」と購入する方が何人もいたようです。作品性にストーリー性が加わると、より魅力的に感じるのかもしれません。

2018年11月の成果報告の頃には、30ページにわたる制作品のパンフレットも完成しました。いつも以上のペースで取り組めたからこその作品集です。これはまさに、フォレストチャレンジをきっかけに、西村さんの中で“変化”があったからでした。というのも、芸術家は「旅をする生き物」であり、視野を広げるためには「変化が必要」なのです。環境が変わることは、創作の大きなきっかけ・刺激となります。三重県へ向かう道中、少し遠回りして北陸などを旅する機会もあったようです。

宮川山林の木材を作品に昇華させていく重要性はさることながら、この活動を通して西村さん自身が芸術家としての幅を拡張させているのが印象的です。

「将来を見据えたら芸術はやっていけない」
「僕らの人生は賭けですね」

西村さんの覚悟に満ちた言葉の数々。こうした思いを持つ作り手のもと、樹木からモノへと形を変えるトヨタ三重宮川山林のヒノキ。きっと、喜んでくれていることでしょう。

 

【執筆者:森ワク編集部】