「絆」のものづくり【株式会社バンザイファクトリー】

岩手県大船渡市に、木材や漆等の地場の素材を精巧な加工を施すことで今までにない木工品を製造する工房があります。IT技術を活かして、温かみのある木の質感を精密に高める木工を行っている「株式会社バンザイファクトリー」です。今回は代表の高橋和良さんにお話を伺いました。その画期的な商品開発の裏側には、前職の医療現場での学びや震災復興への思いが込められていました。

株式会社バンザイファクトリー代表の高橋和良さん

“震災復興の旗”となるようなブランド商品を!

2006年5月、盛岡市に工房を立ち上げ、商品開発を始めました。会社設立当初からIT技術を活用し、新しい価値を与えて木工業界に貢献したいという思いがありました。その後会社は順調に発展していき、工房も拡張していきました。しかし、その最中の2011311日に東日本大震災が起こったのです。被災後、故郷である岩手三陸の地に“復興の旗”となるようなブランド商品を生み出そうと決意し、一旦仕事を休止して三陸への移転新築の準備に入りました。仮設住宅の集会所でも、被災したメンバーとともに木工商品の開発に取り組みました。そして震災翌年の311日に復興のシンボルである奇跡の一本松をモチーフにした「福おちょこ一本松」の発売を実現したのです。

福おちょこ一本松

その後も商品の研究開発、試作販売を繰り返し行いました。その甲斐もあって、現在ではIT技術を駆使し、質感を高めた木工製品が続々と完成し、他にも椿茶や三陸椿冷麺等の食品製造事業も展開しています。

オンリーワンの「絆」を伝えるものづくり

「一人に一つをありがとう」を合言葉に、ある一人にその人だけのものを提供し、満足していただける仕事を目指しています。前職時代に医療現場の最先端にいて、人間どうしが手を握り合う姿をずっと見てきました。患者さんが不安な時、家族は勿論、先生や看護師さんが手を握り合って励ます姿をよく目にしました。子供には特に手を握り続けています。医療現場だけでなく、介護やスポーツの現場でも、頑張ってという励ましの言葉とともに手を握り合う姿を多く見かけます。手と手を通じて心を繋げるその行為は、不安や恐れを和らげ、安心させる力があるのだと思います。また強い喜びがあった時も手を握り合います。

私たちは日々の生活のあらゆる場面で、手を握ることで心を通わせている、まさに「絆」そのものです。また、そこには個人のアイデンティティも現れます。手の握り方や強さ、そしてそこから連想する思い出等は人それぞれです。そのような一人に一つだけのものを作って、その形や思いを残してあげたい。そんな思いから、一人に一つをありがとうになる商品を開発しています。

IT技術で木の良さをさらに高める 

「一人に一つをありがとう」を象徴する商品に「我杯(わがはい)」があります。それは手の握りをオーダーメイドでかたどり、それに沿って彫り込むことで、手の握りを木のカップに再現しています。

我杯

そんな我杯の開発秘話を少しお話します。脳梗塞をわずらった高齢の父親の手の握りを残したいというお客様がいらっしゃいました。一人に一つの形を残したい、そんな思いで作った我杯が、当時は思ってもみない反響がありました。それは、我杯は普通のコップよりも掴みやすく、より少ない力で持つことができるという声でした。握力の低下によりコップが持てず落としてしまっていた父親が、我杯だと手からすり抜けず、使うことができたそうなのです。ユニバーサルな素晴らしいものですね、と言う声が寄せられたのです。

我杯の三次元データ

それ以降、より精密な設計に努めるため、我杯のかたどりには三次元データを利用することを決めました。大学とも産学連携で研究を始め、解析技術やユニバーサルデザインを追い求めました。科学的な分析結果を基に、製造技術と手に合う感覚(感性)を向上させることができました。これも、IT技術があったからこそできたこと。掴みやすく、少ない力で持てる、さらに自然木で出来ているのでとっても温もりがある、そんな木工品の良さを最大限に引き出したものづくりが震災後に生み出せて、とてもやりがいを感じています。

バンザイファクトリーは震災当初は補助金や助成金を使えず、自己資金のみで立ち上がって来た地元では珍しい会社です。木は植えてから何十年、何百年の年月を経て、少しずつ成長することで価値が生まれます。バンザイファクトリーもパッと咲いて散るような事業では無く、耐え忍んで長い期間を経て評価される、木のような仕事を創り出して行きたいと思って日々を暮らしています。

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株式会社  バンザイファクトリー
住所:岩手県大船渡市大船渡町字茶屋前7-7
電話番号:0192-47-4123
メールアドレス:TSUBAKI@sagar.jp
ホームページ:www.sagar.jp