用材だけでない森の価値、里山植物の魅力 #01【ホオノキ】
昔の人々は、身近に生育するさまざまな植物を上手に利用して生活していました。その用途は幅広く、建築用材はもちろん、食料・燃料・染物・生活道具・医療など、衣食住のあらゆる分野に里山の植物を活用しています。
しかし近年、そうした人と自然の物理的・心理的距離は離れつつあります。野山に生えている植物にどんな利用価値があるのか、知っている人はあまり多くないのではないでしょうか?
大量生産の時代が終わりを迎え、里山の価値が見直されつつあるこの時代、身近な自然の価値を理解している人が、より豊かに暮らしていけるのではないかと思います。そこでこのシリーズでは、筆者が森を歩いて見つけた植物にフォーカスし、その植物と人との“お付き合い”の歴史をひも解いてゆきます。
ポピュラーな里山植物「ホオノキ」
第1弾は、一般の方にも馴染みのある木を取り上げます。
「ホオノキ」
分類:モクレン科モクレン属
学名:Magnolia obovata
北海道から九州まで広く分布し、野山では頻繁に見かける樹木です。一目でわかる特徴は、写真のような大きな葉。日本に自生する広葉樹(冬に葉を落とす樹木)の中ではもっとも大きな葉をつけ、最大で45cmほどになります。
幹はまっすぐ成長し、時には30mほどの高木になることもしばしばですが、里山では、写真のように地面からたくさんの幹が枝分かれして生えているのをよく見かけます。
これは、切り株からの芽生え(萌芽更新と呼ばれます)から大きくなった名残りです。つまり、遠い昔に人の手によって伐り倒されながらも、長い時間を生きてきたことを示しています。
伐り倒される理由はさまざまですが、薪として周辺の他樹種と一緒に伐採される“薪炭林”としての利用がもっとも一般的なのではないかと思います。その他に、ホオノキの幹は人にとって有用で、柔らかく狂いのない材は家具の他、寄木細工や彫刻、下駄の歯にも用いられてきました。
食べ物を包むから“包(ほう)”の木
材としての利用価値はもちろん、ホオノキの大きな葉は、古代から器として用いられてきました。今で言う、紙皿やアルミホイルのような役割でしょうか?
諸説ありますが、名前の由来も包(ほう)であり、大きな葉に食べ物を盛ったり、包んだりしたことから命名されたと言われています。
その習慣は現在も残っており、郷土料理などに利用されています。特に中部地方では、朴葉味噌、朴葉餅、朴葉寿司など、さまざまな食べ方があります。地域によって少しずつ食べ方や具材が異なり、地域の特色や各家の伝統が表れています。
写真は、岐阜県白川町に住む筆者の祖母が毎年作る朴葉寿司です!筆者の故郷では、シイタケや鱒の切り身を入れる習慣があります。毎年5月頃にたくさん作るので、これが食べたくて帰省しています。
ホオノキが器として用いられる理由は、
1.葉が大きいこと
2.香りがよいこと
3.燃えにくいこと
などさまざまですが、意外と知られていない特徴として、実は、
4.殺菌・抗菌作用
があるんです!
具体的には、食中毒の原因の一つとなる黄色ブドウ球菌に耐性があります。山仕事をする人がホオノキにおにぎりを包んで出かけるのは、非常に理にかなったことだったんですね!
生薬に美容、多様な使い道
ホオノキの用途は幹や葉に留まりません。
例えば、ホオノキの木炭である朴炭(ほおずみ)は、かつて垢すりに用いたり、鍋の焦げを落としたり、砥ぎにも使っていたと言われています。
また、樹皮から精製する“和厚朴”という生薬があります。現在ではほとんど利用されていませんが、夏の土用のころ、幹と枝の皮を剥ぎ取り、日干しにして乾燥させます。他の漢方薬と配合されて用いられますが、多種類のアルカロイド、リグナン、精油を含んでいて、整腸作用や神経症などに効果があるようです。
このあたりは筆者も勉強不足なので、今度おなかが痛くなったら試してみます。皆さんもぜひチャレンジしてみてください。ご報告お待ちしております!