蚊も撃退?クスノキの持つ力とは

毎年夏になると私達の平穏な暮らしを脅かす奴らがやってきます。そう、皆さんご存知の「蚊」です。かくいう私も蚊には毎年悩まされています。一般的な対策としては虫除けスプレーや蚊取り線香などが挙げられますが、実は、自然の力で蚊を撃退してしまう、そんな効果が期待できる樹木があります!

その樹木とは高い防虫性をもつ「クスノキ*」です。この材と葉に含まれている「樟脳(しょうのう)」という成分は“特有の強い芳香”をもち、蚊が忌避する要因となっているようです。樟脳は別名をカンファーとも呼びます。タンスなどに入っている防腐剤などに使われているので、臭いを嗅いだことのある人も多いのではないでしょうか。

その他にもこの樟脳は血行促進や鎮痛、消炎、鎮痒、清涼感をあたえる作用があります。そのため、かゆみ止めやリップクリーム、外用薬医薬品として使用されるなど様々な用途に用いられています。

また、樟脳を蒸留・分離した残りの油は「樟脳油」と呼ばれます。樟脳油は沸点の違いから白油(はくゆ)、赤油(あかゆ)、藍油(らんゆ)の3種に分離され、それぞれ以下のような使い方がされているようです。

・白油(片脳油)→防臭用、テレビン油の代用
・赤油→石鹸、アルボース防腐剤の原料
・藍油→防臭剤、殺虫剤、白アリ予防剤の原料

このように樟脳という物質は私達の生活にも役に立っていることがよく分かりますね。


*「クスノキ」:クスノキ科ニッケイ属の常緑樹です。樹高は20m直径2mにもなります。本州・四国・九州の暖地に生育。材の組織内部に油細胞というクスノキ科特有の肥大した細胞が存在し、この中に樟脳や樟脳油を含んでいます。

日本では古くより樟脳採取のためにクスノキの植栽が行われてきました。樟脳の製造は元禄年間に薩摩藩が始めたと言われています。その影響から樟脳生産が急増し、一時は国の専売制のもと、財政を支えた時代もありました。しかし、人工的に合成できるようになると、生産は衰えて造林も行われなくなりました。現在では大気汚染に耐性を示し、病害虫も少ないことから、関東南部以西において重要な街路樹や緑化木として利用されているようです。

クスノキの虫よけの力を紹介してきましたが、クスノキはその他にも耐久性が高いという特徴をもちます。世界文化遺産にも選ばれている広島県の厳島神社。実は、この大鳥居の主柱に使用されているのもこのクスノキなんです!1875年に再建されたこの鳥居からもその丈夫さが伝わってきます。


その他にも材が強靭であるので建築、器具、家具、船舶、木魚、彫刻にと多様な用途があり、大活躍しています。

いかがでしたでしょうか?虫よけの樹木クスノキをご紹介してきました。クスノキ以外にも、樹木にはそれぞれに備わった個性的な力があります。詳しく調べてみると新たな発見が見つかるかもしれません。

参考文献)
伊東隆夫、佐野雄三、安部久、内海泰弘、山口和穂(2011)『日本有用樹木誌』海青社
日本樹木誌編集委員会(2009)『日本樹木誌』日本林業調査会