木や植物にまつわることわざは…

今回は木や植物にまつわることわざを例文も交えて紹介します。例えば、「李下に冠を正さず」や「濡れ手で粟」。きちんと意味が説明できますか?

【李下(りか)に冠を正さず】

(すもも)は中国原産の果樹。バラ科サクラ属。学名は「Prunus salicina」。初夏に球状の実が赤紫色または黄色に熟し、完熟すると甘くなります。李の木の下を通るときに、ちょっと手を上げて曲がった冠を直そうとすると、李の実を盗むのではないかと疑われてしまいます。「李下に冠を正さず」とは“疑いをかけられるような行為は初めからするな”という戒めです。

〈例文〉
Aさん「部長は僕が重要な書類をなくしたんじゃないかと疑うんだ」
Bさん「君は毎回もらった書類をその辺に置いておくだろ。李下に冠を正さずだよ」

【曲がった木に曲がった矩】

矩,木にまつわることわざ,曲がった木に曲がった矩,森

「矩」(かね)は大工さんが使う直角に曲がった定規で「曲尺」(かねじゃく)のこと。曲がった木を測るにはそれなりに曲がった定規が必要なように、“物事にはその時々、状況によって適した処理が必要だ”という意味。

〈例文〉
Aさん「前回と同等の規模のバイオマス発電施設を建設しますか?」
Bさん「今回の地域は前回よりも燃料の調達にコストがかかり、需要も小さい。曲がった木に曲がった矩だ。小規模なものを導入しよう」

【いつも柳の下に泥鰌(どじょう)はおらぬ】

ヤナギはヤナギ科ヤナギ属の樹木。学名は「Salix」。ドジョウは小川や池、田んぼなど水辺に広く生息する淡水魚で、泥に潜ります。昔から水田で繁殖し、味もよく栄養価も高いため、柳川鍋に代表されるように食材としても重宝されてきました。ヤナギの木の下で一度ドジョウを捕まえたことがあったとしても、いつもそこにドジョウがいるとは限りません。つまり“幸運があったからといって、何度もそれが続くわけではない”という意味。

〈例文〉
Aさん「昨日の商談、準備不足だったけど、趣味の話で盛り上がってうまく行ったよ」
Bさん「それは良かった!でもいつも柳の下に泥鰌はおらぬ、だから次回からきちんと準備しなさい」

【濡れ手で粟(あわ)

粟はイネ科エノコログサ属の多年草。学名は「Setaria italica」。粟は、稲・麦・きび・ひえと共に五穀のひとつで、縄文時代は主食とされました。タンパク質や脂肪を多く含みます。熟成期の穂には小さい粒状の実が密集しており、小さく軽いので水に濡れた手で触れると勝手に粟の方から手についてきます。それになぞらえた「濡れ手で粟」は、“特に努力をしなくても利益が得られる”という意味。

〈例文〉
Aさん「地区大会のレースは参加者が3人だったからビリでも入賞でも銅メダルが獲得できたよ」
B「濡れ手に粟だね」

いかがでしたか?他にも、「六日の菖蒲」や「桃栗三年柿八年」、「枯れ木も山の賑わい」など木や植物にまつわることわざはまだまだたくさんあります。日本人が古くから自然を豊かに感じていたことがわかりますね。皆さんも普段の会話の中でそっと、木にまつわることわざを織り交ぜてみてはいかがでしょうか?予想外に面白い話の展開につながるかもしれません。

=====================
参考文献
中島淳 文 内山りゅう 写真(2017)『LOACHES of JAPAN 日本のドジョウ 形態・生態・文化と図鑑』 山と渓谷社
木村陽二郎 監修 植物文化研究会 編(2005)『図説 花と樹の辞典』柏書房
槌田満文 著(2001)『四季ことわざ辞典』東京堂出版