木と対話し、魂を吹き込む技術【伊川彫刻店】

写真のような「兜飾りの五月人形」をご覧になった事はありますか?精巧な技術が兜の随所に施され、その各部位の素材は全て木製です。これは徳島県にある「伊川彫刻店」の作品になります。同店は日本の伝統的な木彫り技術を駆使して、見る人を圧巻するような彫刻作品を手掛けています。彫刻は精巧な作業であり、些細な失敗も命取りです。また材料が木のため、その材質によって制作方法も異なってきます。今回は全身全霊をかけて11つの作品を手掛ける「木彫り職人」のこだわりや思いを紹介していきます。

あらゆるジャンルで「木彫り」に取り組む

徳島県は地場産業として唐木仏壇*が全国的にも有名です。伊川彫刻店は、昭和7年に唐木彫刻業を担う唐木仏壇の下請けとして創業しました。しかし、時代の流れに伴って、安価な輸入製品の増加や仏壇の形態の変化(宮型から家具調仏壇)の影響を受け、唐木彫刻の仕事が激減し、経営難に陥ることもあったそうです。

*「唐木仏壇(からきぶつだん)」…紫檀や黒檀などの熱帯地方の木材が使用された仏壇。その木材は、元は中国を経由して輸入されたため「唐木」と呼ばれています。

そんな紆余曲折を経て、現在は、仏壇彫刻や社寺彫刻だけでなく、木彫りを施した看板や表札、インテリア雑貨など、幅広いジャンルで商品を制作しています。その中でも、木彫りの五月人形や雛人形などは売り上げの約半分を占めているそうです。また各種商品はインターネットから注文が可能で、オーダーメイドにも対応しています。ICTを上手く利用することで、全国のお客さんを相手に職人活動を行う。現代に適応した新しい工房の形かもしれません。今でも、毎年新商品を開発し、ギフトショーなどへ出展することで、さらなる販路拡大を目指し活動しています。

五月人形

 

寺社仏閣の彫刻:像鼻吽形

作品へのこだわり

上述の通り、伊川彫刻店の販売する作品は、サイズの小さなものから大きなもの、そして材質が異なる、様々な樹種の材料を利用したものまで幅広いレパートリーを持っています。一般的な彫刻では特定の樹種の材料だけを利用した制作が大部分を占めます。そのような通例を凌駕する高度な技術を持つ背景には、3代目として代表を務める彫昌(ほりまさ)さんの下積み時代に秘密がありました。

3代目彫昌さんこと、伊川昌宏さんは、18歳の頃から6年間、京都の京仏具伝統工芸士の元で修業に励みました。その後、徳島に帰郷し、先代から唐木仏壇彫刻の指導を受けます。お客さんの細かな要望に応えながら、芸術性の高い個性あふれる作品を手掛けることができるのは、下積み時代に、毛色が異なる2つの伝統技術を学んだことが礎になっていたのです。

 

作品の材料には、地元のものを利用することを心掛けています。
商品の色やデザインによって、一部外国の材料を使用することもありますが、できる限り、ヒノキ等の地元の材料を使うものづくりを行っています。

京仏具と唐木仏壇彫刻の2つの技術をもって、全てハンドメイドで制作し、伝統技術の魅力を伝えている伊川彫刻店。どんなにデザインが似ていても、人の手で作られたハンドメイドの作品は、全く同じコピーを作ることはできません。さらに木材を使用している場合、同じ木目や色、質感の木は1つとしてないため、必然的に世界に1つしか無いオリジナル商品になるわけです。

その反面、失敗することも珍しくありません。材料が木の場合は、木目の入り具合はすべて異なるため、繊細な部分を見極めながら彫り進めないと、初期の段階で削り過ぎて、木を折ってしまうこともあります。繊細な木彫りの作業で大事なのは、“木と対話すること”と彫昌さんは語ります。

さまざまなサイズ・形状の“のみ”を駆使して制作しています
制作には様々な“のみ”を使用します。材料となる樹種の材質や年輪形状によって彫り方を変えるためです。

ケヤキ材を使用した“龍の欄間*” 横幅はなんと2m74㎝の超大作です!
*「欄間(らんま)」… 日本の建築様式の1つで、天井の直下にある採光や換気などに用いられるスペースのこと。

現在は海外へ向けての商品開発を、コーディネータやデザイナーと相談しながら進めているのだとか。未だ商品の制作には至っていませんが、フランスの「メゾン・エ・オブジェ」への出展は来年の1月、そして中国の展示会は来年の9月に控えているそうです。今後の伊川彫刻店の動向には大注目です。是非以下のリンクから最新情報をチェックしてみてください。

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有限会社 伊川彫刻店
徳島県徳島市末広3丁目1-56
電話番号:088-653-5315
メールアドレス:info@hori-masa.co.jp
ホームページ:http://www.hori-masa.co.jp/